わたくしは､ファーストレディー

真梨幸子とマリモとモナミ
2019年2月放送

わたくしの名前はマリモ。
みっちりふさふさの毛並みの質感が、阿寒湖のマリモを連想されるから、この名前にしたんだそうよ。なのに、マリモなんて呼ばれるのはほとんどないわ。

もこもこにょんだの、とんとこりんだの、ぽんぽこぴんだの… 意味不明なあだ名で呼ばれることが多いわ。だいたい、あだ名なのに、なんで本名より長くなるのかしら。

ま、それはそれとして… 飼い主の真梨さんは、猫どころか、哺乳類を飼うのも初めてだったんですって。つまり、わたくしが最初の女。ファーストレディー。
だからなのか、とっても大切に扱ってくれたわ。
わたくしのために、猫ベッドを季節ごとに新調してくれたし…
誕生日には、猫つぐらもプレゼントしてくれた。
どれも手作りだから、ちょっとイビツな形だけど、まぁ、悪くはないわ。
わりと気に入っている。

そんなこんなで2年とちょっとが過ぎた頃、あいつがやってきたのよ。
あの子が…

なにか、予感はしていたわ。
わたくしとは違うニオイをつけて、真梨さんが帰って来たことがあったから。
ピーンときけど、わたくしは知らんぷりをした。
だって、わたくしはファーストレディー。そんなことで取り乱したりはしないわ。
それに、どうせいっときの浮気でしょ。浮気ぐらいで騒ぐなんて、はしたないもの。

右がマリモさんで､左がモナミさん。

でもね、真梨さんの様子がいよいよ変になってきて、よそよそしくなってきて…
そして、忘れもしない、去年の４月の下旬、あの子はやってきた。
世界が滅亡する時、ラッパの音が聴こえるというけれど、まさにそのラッパが聴こえた気がしたわ。

パンパカパーン… ってね。

しかも、しかも… あの子の名前は、モナミ。
フランス語で、私の恋人っていう意味なんですって。
それを知った時、また、パンパカパーンっていう気分になったわ。

わたくしの名前の由来は「藻」なのに…
一方、あいつの名前は恋人。しかもフランス語。なんてオシャレなの？ この差はなによ…

でもいいわ。
どうせあんたなんか２番目の女よ。セカンドよ。大奥でいえば側室よ。御部屋様よ。
１番目は、誰がなんと言おうと、わたくし。
大奥で言えば、わたくしだけが正室。それだけはよく覚えておいてね。
なのに、なのになのに… あのセカンド女は初日から態度がでかくて、馴れ馴れしくて、乱暴で…

右側にいる猫さんががモナミさん。

嗚呼... ほんとう、ムカつくんですけど。
だから、わたくしは真梨さんに直訴したわ。
あの子とは違う部屋をちょうだい。あの子をわたくしに近づけないで。
真梨さんは、早速わたくしに部屋をくれたわ。
日当たりのいい、一番の部屋。

でも、やっぱり納得いかない。
本来は、この家全体がわたくしのテリトリーだったのに。
なのに、なんで？

やっぱり納得いかない。

わたくしは、籠城をきめこんだ。
真梨さんはことあるごとに部屋に通って、わたくしにこう言ったわ。

マリモさんが一番よ。
世界で一番かわいいのはマリモさん。
マリモさんだけが、一番よ。

でも、分かっているわ。
きっとあの子にも、同じようなことを囁いているのでしょうね。

分かっているけど、知らないフリをしてあげる。
だって、わたくしは、ファーストレディーなんだもの。
どんな時も、毅然とした態度で…

でもね、本当はとっても寂しいの。心配なの。
真梨さんの愛情が、全てあの子に行ってしまったら… って。

事実、ここんところ、あの子につきっきり。
あの子、膀胱炎になっちゃったんですって。
だからマリさんは、毎日のように病院に電話して、あの子を抱き寄せては「痛くない？痛くない？」って囁いて…

もしかして、わたくしのこと、忘れている？
わたくしのこと、もういらないって、思ってる？

もちろん、そんなことはないって分かっている。
でも、不安なのよ。とってもとっても不安なの。
だから、嘘でもいいから、あの言葉をちょうだい。
一日一度は、必ずちょうだい。

マリモさんが一番よ。
世界で一番かわいいのはマリモさん。
マリモさんだけが、一番よ。

そうすればファーストレディーの自信を取り戻すことができるから。

だから、お願いね。
マリモさんが一番よ。
この言葉、忘れないでね。

必ずよ。

必ず一日一度は、お願いね。